
その当時、すべての世界は暗闇に覆われていた。嵐の冬の真夜中よりも、どの場所よりも、何者よりも真っ暗であった。その暗闇の理由は、川の側に住む一人の老人のせいであった。彼は、家の中に幾十にも重なった箱を持っていた。箱の中にさらに少し小さめの箱があり、またその箱の中にさらに小さな箱があり、数え切れない程の箱がぎりぎりの大きさで重なっている状態であった。そして、その箱の中の一番小さな最後の箱の中に全世界のすべての“光”が入っていた。この老人は自分の娘が醜いかそうでないかを知ることを恐れて、光を隠していた。
ワタリガラスはいかにしてこの光を盗もうかと考えていた。しかし、この家には入口も出口も見えず、この親子が外に出るときを見張っていても、いつもワタリガラスがいる反対の方向からしか出てこなかった。彼にとって、家に入る方法がなかったのである。そこでワタリガラスは考えた。「栂の葉になって、彼女の中に入ろう」と。川へいく彼女の後をつけ、川の水をかごにくみ上げるタイミングを見計らって、栂の葉に変身して、うまく水と一緒に彼女の中に入っていった。そして彼はあるやわらかい場所までたどり着き、今度は人間の子供に変身をして、彼女が生んでくれるのを待った。しばらくして彼女は異変に気づいたがその老人には伝えずにいた。
そしてある日、彼は人間のこどもの形をして生まれてきた。
見た目は普通ではなかった。鼻はとがっていて全身に羽も生えていた。しかし、この老人は彼を孫として認めざるを得なかった。そして彼は、老人にあの箱を開けるように駄々をこねた。一つ開けるとまたもう一つ開けてくれと何度も駄々をこねた。そしてついに老人が“光”が入っている最後の箱を開けたとき、ワタリガラスはそれを掴んで家の外に飛んで行って、世界に光をもたらした。と同時に、娘の顔もくっきりと映し出され、たいへん綺麗であることがわかった。
ワタリガラスが去るのを見て、ワシ(Eagle)は、彼から“光”を盗もうとした。 そのせいでワタリガラスは光のいくつかを落としてしまった。それが、月(moon)と星(star)になった。